ありのまま、愛すること。

すべてを失った父の背中

父が会社を清算したあと、家庭はとても貧しい生活に陥ります。

移り住んだのは、公団住宅の2DK。4畳半の部屋に父、6畳間に姉と私の2段ベッド、その横の狭いスペースで祖母が寝るという足の踏み場もないような住まいでした。

毎月の生活費を父親が祖母に渡していたのを見たことがありますが、「そんなに少ないお金で生活できるの?」と、驚くような金額でした。

ギリギリのなかで祖母はやりくりをしていたのでしょう。白い新品の靴下を当時、私は履いたことがありません。

父親のお古で、ゴムが伸びきったようなものしか、私にはあてがわれませんでした。それも、親指や踵に穴が開いたものに、祖母が糸で修繕したものです。

そのときの貧乏だった記憶が根強く残っている私は、いまでも白い靴下を見ると、大量に購入したくなってしまうほどで、白い靴下は、当時の私にとって「贅沢の象徴」だったと言えるのです。
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