ありのまま、愛すること。
実は、会社を清算したあとの父の姿こそが、私が「将来、社長になろう」と決めたモチーフとなりました。

幼少時は、社長としてつねに華々しい舞台にいる父の姿を見て、社長とはスターであると、単純に考えていました。

朝は10時に運転手が迎えに来て、車にさっそうと乗り込む。

周囲からは「社長、社長」ともてはやされ、盆や正月には社員がわが家に集まり、父を囲んでいた……。

そんな父の姿に「カッコいい」と思っていた私でしたが、その時点では私は、自分が起業することなど、結びつきもしませんでした。

実は、私がそれを決めたのは、父が会社をたたんでからの姿勢にこそあったのです。

会社を清算するとき、個人の負債としたのは、取引先を裏切らず、かつ会社のために働いてきてくれた社員にかける負担を極力減らすためにとった方法でした。

会社に対しても、社員に対しても、取引先に対しても実に誠実な対応を取り、責任は自分でかぶったのです。そして自分で返済しようとした。

その真摯な姿、決断に、幼いながらも私は、父を誇らしく思ったものです。
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