置き去りの季節
啓悟と出逢ったのは高校一年生の時。三回目の席替えで、隣の席になったのだ。それまでお互いに話したことも、目を合わせたことさえなかったのに、啓悟は私に対して妙に馴れ馴れしかった。
そして、いつの間にかは分からないけれど、お互いがお互いを意識するようになって、その年の夏、啓悟から告白を受けて、付き合い始めたのだ。
一緒に居るだけで幸せだったし、もちろん小さな口喧嘩なんかもしたが、すぐに仲直りした。このまま、なんのアクションも必要ないと思ってた。何もないことが、平和なことが、一番だと思ってた。

けれども、そんな日常は、もう戻ることはなくなってしまった。
人気の無い道で油断したのか、居眠り運転が突っ込んできたのだ。
どうしてあと三メートルずれていてくれなかったのだ。どうして啓悟が死ななければなかったのだ。
恋人を事故で失うなんて、実によくある話だ。ドラマや小説で見る度に「うじうじといつまでも悩んで、他人に当たって取り乱して、馬鹿みたい。」なんて思ってたけど、実際に体験すると、それがどれだけ辛いことか分かって、自分がそんな辛いことを一ミリも知らずに生きてたんだって、本当に幸福者だったんだって思った。
失ってみて、こんなに辛いことだって分かったら、最初から手に入れなければ良かった等と思うようになった。きっと、手に入れた幸せがそっくりそのままマイナスになって、失った辛さに加わってのし掛かってくるんだ。
失った辛さ、手に入れた後悔、そんなものがあって、私は夏が大嫌いになったのだ。
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