「おう!矢田!今帰り?」

「うん!矢吹くんは?」

「俺も今帰るとこ。」

遅刻してきた日以来、俊也は部活に行ってないようだった。

「矢吹くん、肩の調子はどう?」

「あぁ、矢田も知ってたの?」

「うん。よくは知らないけど…。」

「実はもうダメなんだ。完全に肩を壊しちゃって、もう野球は続けられそうにないんだ。」

「そう…。」

「深刻そうな顔するなって!別に死ぬわけじゃないんだから!」

「うん。そうだよね!」

「実は前々から、あまり良くない事は自分でも分かってたんだ。夏の大会まではもって欲しかったけどな…」

「…。」

言葉がみつからなかった。

意気消沈している俊也にかけてあげられる優しい言葉が何一つみつからなかった。

こういう時、何て言ってあげたら矢吹くんを楽にしてあげられるんだろう?

全く分からなかった。

その時、私は自分でもびっくりするような事をしていた。

気が付いたら、私の左手は俊也の右手に触れていた。

そして…

俊也の壊してしまった肩をそっと触った。

「矢吹くんの肩、すごくあったかいよ。まだ大丈夫、投げれるって言ってるみたいなのに…。まだ壊れてなんかない気がするのに…。どうしてなんだろう…。」

俊也が私を抱き締めた。

私の頭上に冷たい液体が落ちた気がした。

矢吹くん、今、泣いてるんだ…

俊也の肩は小刻みに震えていた。

「矢田?」

俊也の声は掠れていた。

「ん?」

「お願いがあるんだけど…。」

「どうしたの?」

「矢田、今俺の顔見ないで。みっともない顔してるから。」と言って、笑った。

「分かった。矢吹くんはいつもカッコ良すぎるんだよ。頑張り過ぎだよ。そんなに、頑張らなくて良いんだよ。矢吹くん…苦しかったんだね。辛かったね…。」

私は俊也の背中を摩った。

「矢田…ありがとう。もう一つお願いがあるんだけど?」

「何?」

「暫く、このままでも良い?」

「矢吹くん?」

「ダメ?」

私は笑った。

何だか可笑しかった。

「良いよー。」

私は暫く、俊也を抱き締め、俊也の背中を摩り続けた。

ようやく落ち着いたのか、俊也が「あ、ごめん。」と言って、私を放した。

「俺、医者に肩が完全に壊れてるって聞いてから、一度も泣かなかったんだ。ただ、ぼーっとしちゃって…」