この世界は残酷なほど美しい
~1.今日も空は蒼かった~


僕は人より少し何かが遅かった。




―…6月。
もうすぐ梅雨入りをする、とそんな情報がテレビで流れていた。



「坂井先輩、私…坂井先輩のことが好きです…。付き合ってください!」




今日の空は蒼かった。
目の前には可愛らしい女の子が僕に気持ちを伝えている。
だけど僕はそんなのには興味がなく、それ以上に空の蒼さの方が気になっていた。

人気のない中庭。
どうやらここは告白スポットらしい。
ここに来るのは…えっと。
何回目だろうか。
日に日に薄れていく壁に書かれた相合い傘。
それを初めて見たときはまだ書いたばかりのように文字がはっきりとしていた。
だが今はもう消えてしまうくらい薄い。

この相合い傘に書かれた名前のカップルは今どうしているのだろう。



「……先輩…?」




彼女がもう一度僕の名前を呼んだ。
僕は視線を彼女に移して微笑みかける。
するとみるみるうちに彼女の顔は赤くなっていった。




「…キミは僕が好きなんだよね?気持ちは嬉しいけど僕のキミに対する気持ちはキミが僕を思うほど無いんだ。ごめんね」





僕は人を好きになったことがなかった。




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