甘い声はアブナイシビレ
1.葵と知穂と龍一と、ときどき拓也
「マジムカつく あのオヤジ!」
 知穂はそう言うと、ジンライムをグイッと飲みほした。

 たまに部署にやってきては、仕事とは思えない個人的な事を女子社員にさせている部長の横暴ぶりに、

「アイツいったいナニ様だっつーの! 女子社員は自分の召使じゃないんだっての!」

 バンッ!

 グラスをテーブルに強めに置き、吐き捨てるように言いながら、
「同じのお願い」

 ドラマで主役を出来そうなくらい、イケメンのバーテンダーにニッコリ笑って、知穂は私の方を向いた。

「葵だってそう思うでしょー?」
 話題の矛先が私に向きそうだったので、慌てて知穂に頷く。

 知穂が酔っぱらうと、
『葵に何で彼氏が出来ないんだー!』って叫び始めたり、
『合コンに来い!』ってしつこく迫って来る。

 今のところ仕事が面白くて、男がいない生活に満足しているし、元彼が束縛のきつい人で、仕事が遅くなったりすると電話攻撃や会社の前で待たれたり、勝手に待っておきながら、イライラして当たり散らされたり・・・ひどい時には手を挙げられて散々だった。

 男の人が恐いとか、元彼がトラウマになってるとか、そういうのはないけれど、仕事が楽しい今、ハッキリ言って男は要らないし、彼が出来たら面倒だ、とも思っている。

 知穂は、元彼があんな人だったし、元彼と別れて以降、私が恋愛を積極的にしないからか、男はあんな奴ばかりじゃないと、伝えたいみたい。

 酔っぱらうと必ず、彼氏を作った方がいい。いい男は絶対いるから。など言い始め、無理矢理合コンのセッティングをしてしまう。
 この間だって、そうだった。
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