イマージョン
美夢・20
近頃、毎朝、目が覚めると涙が出るのは何故だろう。声を殺して枕に顔を埋めて泣くのは何故だろう。明日こそ行かなくちゃ。毎晩そう決心するのに朝になると涙が止まらなくて永遠に止まらくなったらどうしよう。ウォーターベッドに、なったらどうしよう。と考えている内に家を出なければいけない時間になって、それでもベッドと身体が、くっ付いて離れなくて、そのまま泣き疲れて寝てしまうか、変な勇気を出して電話をしている。もう無断欠勤は許されないだろう。最初は、具合が悪い。で通用していたけれど、薄々、いや、もう完璧に気付かれている。山下さんに。もう、あの場所なんかに行きたくない。あの場所で働いている自分を想像するだけで恐ろしい。足が竦む。行きたくない。行きたくない。行きたくない。電話しなくちゃ。電話しなくちゃ。電話…。勇気を出して通話ボタンを押す。コール音と一緒に心臓がバクバクしているのが分かる。おそらく、眞奈の目標を聞いてから、こんな風になってしまったんだ。しかし眞奈ちゃんのせいにしてはいない。不甲斐無い自分が、どうしようもなくなったからだ。
プルルル…プ…
「はい」
案の定、舞でも亜紀でも寺田さんでもなく山下の低い声が聞こえた。もう毎回の事だから、分かっていて出たのだろう。私の声は震えていた。
「あの…今日も…」
言いかけたら
「もういいよ。美夢さん」
背中が凍りついた。
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