無情エキセントリック

マザコン

 寂れてしまった心の中に時々光が見えるんだ。希望とか夢とか恋とか情とかっていうもの?けどやっぱりどれも違う。その正体は期待だ。本当は期待してる。本当の俺を誰かが受け入れてくれるってこと。
俺は玄関の前で穿いていたジャージを脱ぎ、スカートを短く折り曲げると一つに結んでいた髪を解いた。さらっと流れる黒い髪は鏡でみると一見清楚なお嬢様に見える。俺は鏡で自分の姿を見て気持ち悪そうにうぇっと舌を出した。
「母さん、ただいま!」
しんと静まり返る部屋にベットで身を起こすお袋が見えた。
「あ~もう、起きなくていいから」
俺はすばやく母親のそばに近づき、身を起こそうとする母親を支えた。
「だって華が帰ってきたんだもの。うれしくて」
お袋は本当にうれしそうに俺を見てそれこそ本当に花が咲いたみたいに笑うんだ。俺はそれがうれしくていつの間にかマザコンといっていいほどお袋を大切にするようになっていた。
俺とお袋は俺が2歳の時に一度、別れている。離婚がきっかけだ。力もなく体も弱い病気がちなお袋に俺は育てられないとふんだ俺の父親が俺を引き取り育てた。そして今になってお袋と父親は復縁し、ともに暮らすようになったのだ。といっても父親は金だけ渡してそこらのベビーシッターに俺の世話を頼んでいたので、どうも自分の親父だという実感が湧かない。けれど父親にとってお袋は別みたいでしょちゅう電話で様子を聞いてくるし、長電話する。そんなに好きなら何故離婚したんだろう?それだけはお袋にも父親にも教えてもらえない。
「母さんはベットで寝とけばいいの!体弱いんだから」
「だって母さん、華といっぱい話がしたいんだもの!それに今日は調子がいいのよ、ねぇ華は好きな男のとかいないの?」
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