男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-


「ごめんな、楓、ことり。」

「もういいよ!私、お兄ちゃんが目を覚ましてくれて嬉しかったよ!

スカイもやめる!もともと、お兄ちゃんが目を覚ますまでっていう約束だったんだから!

わ、私の方こそ、ごめんね。」

ことりは被ったままだったウィッグを取ると、鞄に突っ込んだ。

無理やり笑顔を作り、お母さん呼んでくる!と言い病室を出ていく。

「ことり!」

楓が彼女を呼んだが、止まることはなかった。




「...。」

楓は俯く。

「僕のほうこそ、ごめん。」

陽に向かって謝れば、彼は首を横に振った。



「...僕、ことりが好きなんだ。」


小さく呟かれた言葉は、はっきりと陽に届いていた。

「自分勝手だよね、傍にいてほしいからスカイを続けていて欲しいなんて。」

「...陽は俺だ。」

「うん、わかってるよ。」

だから、ことりはずっとスカイとして居続けることはできない。

彼女の正体を知った時から、わかってはいた。




「陽君、明日からレッスン来るんでしょ?」

「...うん、そのつもり。」

「そっか。じゃあ、僕はそろそろ帰るよ。また明日。」

「またな。」

楓は鞄を持つと、軽く陽に手を振り病室を出ていく。

一人、病室に残された陽はぼうっと窓の外の景色を見ていた。

自分が意識を失っている間に、こんなに変わっているなんて思ってなかった。


「...。」


けれど、スカイとしての森山陽は誰にも譲ることはできない。

陽は俺なのだから。
< 114 / 213 >

この作品をシェア

pagetop