御曹司の溺愛エスコート
ふたりはコートを着て外へ出た。
手袋のない手は蒼真にぎゅっと握られていて反対側の手はお互いポケットに入れていた。


蒼真は厩跡を避けて違う道を行こうとしたが、桜は立ち止まり首を横に振った。
そして蒼真の手を軽く引っ張り厩跡の方角に足を向けた。


桜は黙って歩いている。


雪の上にこんもり盛り上がっているものがあった。


桜は蒼真の握っていた手を離すと、そのこんもり盛り上がった雪の前にしゃがんで雪をかき始めた。


「何をしているんだ? 手が冷たくなる」

「昨日、お花をここに置いたの」

「花束を?」


数回かくと花束が出てきた。


「望くんに上げようと思って」


今まで望の事を避けていた桜。
だが自ら忌まわしい過去のあったここで望の名を出すことに蒼真は驚いた。


しゃがんだままの桜は両手を合わせたまましばらく動かなかった。



< 342 / 356 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop