天使のキス。
タクシーが学校に着くと、タクはよろけながら降り、あたしはそのままタクシーで桜川公園に向かった。


元来真面目なタクには、学校をサボるなんて発想はない。


だから、心がどんなにボロボロでも、いつも通り真面目に授業を受けて、いつも通り柔道のお稽古に励むはず。


そんなタクを思うと心が痛んだ。


小学校からの想いを閉じ込めておくのは、どんなにつらかった事だろう。


そしてこれから先もきっと、沙耶の事を変わらず見つめていくに違いない。


ただ、ひっそりと。


沙耶に気づかれることも、沙耶に気付かせることもなく。


沙耶との恋に期待することも、見返りを求めることもなく。


ただ、一途に、沙耶だけを――…。


あたしは、そんなタクの想いが、沙耶に届く日が来る事を願った。

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