嘘婚―ウソコン―

*さよならワルツ

その翌日、千広は陽平の事務所を訪ねにきた。

彼とアポイントは取っていない。

「今すぐ離婚して!」

甲高いその声に、千広はドアに伸ばしかけた手をひっこめた。

事務所に誰かきているらしい。

「それは無理だね」

あざ笑うように言う陽平の声が続けて聞こえた。

「俺は離婚するつもりなんてない。

まあ、お前が愛人でいるって言うなら話は別だけど」

話しているのは、あの女性だろうか?

見合い相手だと言う、銀行のお偉いさんの娘が話し相手なのだろうか?

「そんなの嫌よ!

あたしは、陽平さんの妻になりたい!」

ヒステリックに彼女が叫んだ。

「ずいぶんと頭の悪いお嬢さんだなあ。

ああ、お嬢様だから頭が悪いのか」

そんなヤツに治す薬なんてないなと、陽平が聞こえるように呟いた。
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