嘘婚―ウソコン―

*ジンジャエールは甘口

よく磨かれたバーカウンターの床のうえで、千広はうずくまって両手で頭を抱えていた。

うまくごまかされた。

うまく逃げられた。

周陽平に巻かれた。

「――クッソ…」

千広は呟かずにいられなかった。

悔しい!

悔しい!

悔しい!

この悔しい気持ちを、一体どうしろと言うのだろう。

その時、
「小堺さーん、ジンジャエール甘口1つ」

大前がテーブル席から呼んだ。

「はーい」

業務中だと言うことを忘れていた。

今日はお客が1組しかきていないとは言えど、今は業務中である。

千広は冷蔵庫からジンジャエールのビンを取り出した。

次に後ろの棚に手を伸ばすと、グラスを取り出した。
< 56 / 333 >

この作品をシェア

pagetop