モラトリアムを抱きしめて
決別
「ご家族の方ですか?」

「あ、え……と……親族です」

家族と名乗るのも、娘と名乗るのも嫌だった。

「こちらです」と案内されたのは冷たい廊下。

院内は静かで薄暗かった。二人の足音だけが響き渡る。

看護師について歩いていくと、さらに冷たく静かな場所へ連れてこられていた。

ここって……。


嘘、だ。


ハッと気付いた時には、看護師よりも先に『霊安室』の扉をくぐっていた。


< 70 / 109 >

この作品をシェア

pagetop