海までの距離
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咲が机に突っ伏して寝ている。
咲の黒髪の間から覗く耳には、赤い一粒石のピアスがちらり。
海影の耳にも、沢山ピアスが開いていたなあ。
ヴィヴィアン・ウエストウッドのピアスを幾つかしていて、親からピアスを開けることを禁じられている私はちょっと羨ましかった。
昨日の夜、そんなにも海影の横顔を見ていたんだということに、改めて頬が緩む。
帰ってから、私は何度も自分の携帯の電話帳を見返した。
そこには確かに「海影」という名前があった。
土曜で授業はなかったけど、昨日置いてきた自転車を取りに行かなければならなかったので、ついでに学校で勉強していくことにした。
11時頃に図書室に着くと、そこには先に咲がいて、私は咲の隣に座った。
咲は最初は古典の勉強をしていたけれど、私が来てから30分も経たないうちに寝てしまって。
英語の長文読解をしていた私も、咲が寝ていることに気付くと、途端に勉強する気が失せてしまった。
英文を訳していたルーズリーフを少しずらし、新しいルーズリーフを出して、下に引く。
“ハーメルン、新潟初公演。”――私は1行目に、小さな文字でそう書いた。
頭を抱え、心中唸る。
昨日の感情をどう文章化したらいい?
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