頭痛
第一章 頭痛
 細長い二本の指で挟んだ煙草をくゆらせながら、車の助手席の若い女は窓を全開にして、流れる外の景色を眺めていた。

 ピンクのワンピースを着た女の表情は、どこか虚ろで、それでいて、必ずしも退屈そうにも見えなくもない。肩まで伸ばした黒々と艶やかな髪が、草のようにざわめく。女は時折、ぼんやりと運転席の男を見ては、また、外の景色にゆっくりと目を移した。

 植物の湿った臭いが、車内にまで酸味を帯びて充満している。

 擦れたセンターラインを車の下へ敷き込み、走行する。雨上がりの路面は、ヘッドライトが乱反射し、運転者の視界を一瞬で奪おうとする。運転している男はしきりに目を凝らし、ハンドルを何度も握り返していた。

 三十代後半に差し掛かったその男の名は、川上秋史(かわかみあきふみ)という。
 ひどく疲れた様子で、額は脂汗で一杯だった。

 そんな秋史の様子をチラチラと見ながら、助手席の女は何も言おうとはしなかった。


 ──夜が更けていく。

 助手席の女の方を見向きもせずに、秋史は車のスピードを落とし、人通りの少ない寂れた山道を走った。

 無言の二人を乗せた車は、ただひたすらに分岐点のない一本道を進んでいた。



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