自分の気持ちに気がついて、何日たっただろう……。想うことをやめようと意識すればするほどに、気持ちに気付かされた私は、もう降参。

 今日も変わらず私は都筑さんへの想いを秘めたまま、玄関先で彼を見送った。

 「いってらっしゃい」と、私が言うと、「いってきます」と、笑う都筑さん。まるでママゴト。新婚気分って言ったら笑う??

 でも、ちょっとそんな気分に浸れて私は幸せだったりする。たかがメイドなのにね? でも、いいじゃない。口に出すわけじゃないし、だから人に笑われることも無い。

 それに、そう思うぐらい……。彼を想うぐらい、自由でしょ?  

 私はおもわずフッと笑うと、リビングに足を向けて、カチャカチャと、食器を洗い始めた。ボーッと都筑さんの事を、考える。

 なんって言ったらいいんだろう。立場はね、全然対等じゃないんだけど、それでも一緒に暮らせるという事は、嬉しい事がいっぱいで、例えば、「おはよう」、「おやすみなさい」を言い合えたり、そんな些細な事が嬉しい。

 だってソレは、一日の始まりと、終わりの言葉。都筑さんの、一日の始まりと、一日の終わりは、私なんだよ。言葉を交わすのも、見る人も、私なの。それって、すごくない?

 一緒に暮らしてるからこその、特典は、まだまだあって、出勤前の都筑さんのネクタイが、少し曲がっていた時、「曲がっていますよ」と、言ってみたり。

 ちょっと照れた顔が、見事に私の心臓を、わしづかみ。なんか……可愛かったんだよね。でも、この時はなぁ……。

 私はスポンジを片手に、「はぁ~あ」と、思わず溜息を付いた。

 だって、私はネクタイの結び方なんて知らない。知っていたなら、キュってさ? キュって直してあげたのに……。

 右手に掴んだスポンジを、『キュ』ってトコロで、拳を作るように、軽く手首のスナップを利かせて、私は握る。おバカな乙女モードに入り込んだ私は、一人自分の世界に浸りこみ。スポンジから泡が出て、ヒジまで水が垂れてきて、やっと我に返った。

 って……やだ、私。ちょっとぉ。

 「なぁ~に、考えてんのかなぁ? 私っ」

この作品のキーワード
長編  シリアス  社長  身分差  メイド  プロポーズ  ビー玉  年の差  甘切  遺言 

感想ノートに書き込むためには会員登録及びログインが必要です。