幕末に来た少女〜
第六話♯間者
芹沢の暗殺から
一ヶ月経った
九月十六日、
間者六人がバレる。

「一君、今屯所に居る
幹部を近藤さんの
部屋に集めて
ほしいんだけど……」

平日だが非番だと言う
斎藤に声をかけた。

〈十日あれば
六人とも逃がさずに
捕まえられるよね……〉

「分かった、
燐は先に近藤さんの
部屋に行って話してろ」

斎藤は燐と別れ
幹部の皆を呼びに行った。

「近藤さん、
お話したいことが
あるんですが
今宜しいでしょうか?」

襖越しに燐が
話しかける。

「燐か、入りなさい」

近藤は襖を開けて
中に入れた。

「土方さん、山南さん
お二人も
いらしてたんですね」

中に入ると、
副長二人も
そこに居た。

「単刀直入に言います
新撰組の中に
六人間者が居ます」

副長二人は驚いてるが
局長である近藤は
黙ったままだ。

「烝君も検討
ついてるんでしょう?」

天井に向かって
声をかける燐。

山崎が降りて来るのと
斎藤達が来たのは
ほぼ同時だった。

「斎藤か入ってこい」

襖を開けて
入って来たのは、
斎藤*藤堂
原田*井上だった。

「あっ、井上さんは
初めましてですね
守山燐と申します」

六番隊長組長*井上源三郎

鳥羽・伏見の際に
討ち死にしてしまう人物。

「貴女が新しい
女中ですね初めまして、
井上源三郎です
皆は"源さん"と
呼ぶんですよ
だから燐さんも
是非、そう呼んで下さい」

〈明らかに年下の
私にまで丁寧に
話してくれる
物腰が柔らかい人だ〉

「わかりました、源さん」

燐も笑顔で返した。

「それで、山崎*燐
間者が居るってのは
どういうことだ」

二人の自己紹介が
終わったところで
土方が眉間に
シワを寄せて聴く。

「言葉の通りです
今から、
名前を言いますので
その六人を
見張ってて下さい」

その場に居る
皆の顔が険しくなる。

「楠小十郎
松井竜三郎
荒木田左馬之助
松永主計
御倉伊勢武
越後三郎
以上六名です」

挙がった名前に
近藤、燐、山崎以外は
皆目を見開いてる。

国事探偵方の六人が
まさか間者だったなんて。

「何でその六人が
間者だって分かったの?」

平助が思ったままの
質問をぶつけた。

「今から九日後の
二五日に新八と
中村さんが暗殺
されかけたことで
発覚するんだけど
翌二六日、
松井さんと松永さんは
逃走後行方不明
御倉さんは一君が
楠さんは左之さんが
斬るんだよ
越後さんについては
文献が残っていないから
逃走後は
わからないんだ」

燐が話し終え、
誰一人口を
開こうとしない。

そもそも、
近藤は
間者だと知っていて
新撰組に入隊
させたのだから
何も言えないだろう。

「とにかく、
他の皆が帰って来たら
今の話しをして欲しいの。

わたしはこれで
失礼します」

前半は平助、斎藤、山崎

後半は山南や土方達
目上の者に対して言った。

誰も話さなくなった
近藤の部屋を
そそくさと出て行った。

追いかけて来たのは
予想外にも井上だった。

「燐さん」

呼び留められた声に
振り向いた。

「源さん……」

〈一君あたりが
追いかけてくると
思ってたけど
予想が外れたなぁ〉

「何か、
隠していることが
あるんだね」

確信をついた言葉。

「流石ですね
そうです、わたしは
あの場で
言わなかったことが
一つあります
言えば、確実に
混乱を招くことを……」

井上は直ぐに
追求しようとは
して来なかった。

燐が言うのを
待っている……

「土方さんや
他の皆には混乱を
招きかねないので
秘密ですが源さんには
特別に教えます。

先程、名を挙げた
六人について
近藤さんと一ヶ月前に
暗殺された芹沢さんは
間者だと
初めから知っていて
此処に入隊させたんです」

燐は山崎すら
居ないのを確認して
井上に話した。

局長二人しか
知らない秘密。

土方が知ったら
激怒しそうな内容だ。

「そうだったんだね」

やはり柔らかい
物腰で微笑み
今にも泣き出しそうな
燐を抱きしめた。

「後から土方君達に
知られるとしても
さっきは言わなかった
燐さんが
正しいと私は思うよ」

父親のような
井上に燐も
抱きしめ返した。

「今は、
その六人を
調べなければならないね」

そう、幾ら
土方達が
事実を知らないとしても
あの六人を逃がさずに
捕まえることが先決だ。

「そうですね
源さん
ありがとうございます」

元気になった燐を見て
井上も微笑んだ。

「何かあったら
遠慮せずに
私に言うんだよ」

〈お父さんみたい〉

「はい」

これから見回りだと
言って井上は
部屋に戻って行き
燐も自室に戻った。

そして
九日後の
九月二十五日、
六人に
切腹が言い渡された。

二日後の二十七日・昼
近藤の部屋に土方の
怒号が響いていた。

言わずもがな、
例の六人のことである。

「最初っから
知ってたって
どういうことだよ」

今にも近藤の
胸倉を掴みそうな勢いだ。

「土方さん、
落ち着いて下さい」

慌てたのは、
未来から来た燐だった。

「お前は最初から
知ってたんだろう」

そう言われて
しまえば黙るほかない。

全てを知っている
燐は俯いたまま
何も言えなく
なってしまった。

「確実に捕まえる
ために私たちにも
黙ってたんですよね?」

沖田が燐の背中を
摩りながら
柔らかい口調で訊いた。

無言で頷くことしか
出来なかった……

「土方さんも、
そんなに怒ってると
疲れてしまいますよ」

土方は不満げに座り直し
何も言わなくなった。

近藤の部屋に
静寂が訪れる。

「黙っていて
すまなかった」

普段の局長としての
威厳は何処にもなく
その場に居る全員に
頭を下げた。

「近藤さん、
頭を上げて下さい」

今まで黙って隣に居た
永倉が先程の沖田のように
近藤の背中を摩りながら
ゆっくりと起こした。

「しっかし、
俺にまで
黙ってるとか酷いなぁ」

山崎が拗ねたように言った。

「だって、烝君は
どっちかっていうと
土方さん側でしょう?」

図星だったようで
ぅ゛っと息を詰めた。

「やっぱりね」と言った後
土方に向き直り謝った。

「土方さん、すみませんでした」

燐は謝った。

未来から来た
燐は新撰組のその後を
知っているから、
どうしても皆の運命を
変えたかった。

例え、それで未来に
帰れなかったとしても……

「はぁ~
まぁ、捕まえたから
今回のことは
もう、誰も咎めねぇよ」

ホッとした燐であって。

「ありがとうございます」
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