放課後は、秘密の時間…
第六章 前触
鏡に映ったあたしは、ひどく情けない顔をしていた。


ふと目に入った、首筋の赤い痕。

それが隠れるように、シャツのボタンを上までキッチリと閉めていく。


はぁ……

ため息をつくのは、これでもう何度目なんだろう?


こんな暗い顔のまま、生徒の前で授業なんかできない。

そう思って、鏡の前で何度も笑顔の練習をしてみたけれど、上手くいかなくて。


結局どうすることもできずに、憂鬱な気持ちで、あたしは高校へと向かうバスに乗った。



いつもは、このバスの中で、その日の授業のことを考えてるのに……

頭に浮かんでくるのは、一人の生徒のこと。


――市川君……


どうして彼のことばかり考えちゃうんだろう?


最初はあんなにいやだって思ってたじゃない。


なのに、なんで?

今は……


重い気分を払うようにあたしは首を振った。


これ以上考えるのはやめよう。

ちょっと色んなことが続いて、きっと混乱してるだけ。


市川君はただの生徒。

今までだってそうだったんだから、これからもそうだよ……


流れる景色をぼんやりと見つめながら、繰り返し、そう自分に言い聞かせていた。

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