朝。出勤前に私は、机の上に綺麗にたたんだ、マフラーに目を落とす。

 昨日、前野さんが貸してくれたマフラー。さすがに今日、「有難う御座いました」なんて、返せそうに無い。

 メッセージカードを、どう誤魔化そうか……。それが重大事項だから、余計な試練は自分で持ち歩かない。

 だって、マフラー返しに行くだけでも緊張することは間違いないのだから。

 そんなマフラーの傍には、昨日貰ったチョコレートが、飾るように、置いてある。

 どうして私にくれたんだろう? そんな疑問が浮かんだけど、直ぐにそんなのどうでもよくなった。好きな人から、何か貰えるなんて嬉しい事。それだけでいいじゃない?

 「永久保存版だわ」

 思わずそう呟いて、私はクスリと笑う。

 そして、直ぐにまた我に返った。

 私ってば目先の事ばっかりに気を取られすぎ。笑ってる場合じゃ、無いのに。

 現実を思い出して、私は「はぁ。」と、また深い溜息を付いた。









 ドア側に立ち、ボーッと外を眺める。電車に揺られながら、だんだん不安になってきた。

 会社に近づくにつれて、焦りが出る。どうやって誤魔化そう。誤魔化す事ばかりが、私の頭の中でグルグル回る。

 予期せぬ展開にしろ、想いが伝わった。それを良しと取る人もいるとは、思う……。だけど、ね。私には自信が無いし、振られる事は分かっている。

 出来れば私は前野さんの口から『ごめんなさい』の言葉を聞きたくない。

 じゃぁ、どうしてチョコレートなんて用意したの? と、聞かれてしまえば分からない。自分でも分からないけど、勇気も無いくせに頑張ってしまった。

 これぞ、矛盾する乙女の恋心。ってヤツよ。って、25にもなって、なぁ~に言ってんだか……。



 「はぁ」私は思わず溜息を付く。会社、行きたくないなぁ…。

 ウダウダと、出来る筈も無い願望を思っては、眉間にシワがよる。そんな私。完璧、自分の世界に入り込んでいた私の傍で、微かに声が聞こえた。

 「……ん?」

 え?

 「西村さん?」

 えぇ!?