君がいたから
エピローグ
「ってのが俺の初恋だよ」
「ロマンチックねー顔に似合わず」
「一言余計」
あの時から十年がたった
俺は家庭を持った
「それが、この子にその名前をつけた理由?」
「そうなるな」
彼女の手の中で眠っている
ちいさな命のほっぺたを人差し指でそっとなでる
「ゆっくり、ゆっくりでいいから
少しずつ大きくなれよ」
自分の子供に笑いかける
「上総」
愛しい存在の名を
自分の子供の名を
呼ぶ
今が大切かと聞かれたら
俺は戸惑いなく
笑って答えるだろう
「もちろんだ」と
昔は過去のほうが大切で
両親が生きていた頃ばかり想っていた
でも、今は
今が大切だ
幾年すぎようと
俺は、上総が生きていたあの日々を
忘れはしない