ボーカロイドお雪
第六章 歌姫たち再び
 次の週末は結構忙しかった。ギター以外のライブに使う機材はそのまま残っていたからなんとかなる。でも前のギターは跡形もなく壊してしまったから新しいのを買わなきゃいけない。
 久々にお父さんを拝み倒してお金を出してもらい、あたしは隣の大きな市の楽器店を数軒歩き回ってギターを探した。幸いそのうちの一軒でちょうどよさそうなギターを見つける事が出来た。
 今度のギターはエレガットという種類にした。略さずに言うとエレクトリック・ガット・ギター。形はクラシックギターと同じで弦も、前のギターのように金属弦ではなく、ナイロン製の弦を張る。
 すごいのは、ボディーの底のあたりにエレキギターと同じようにコードを差し込むプラグがあり、直接アンプにコードでつないで音を出せるという点。フォークギターでこういう構造の物がある事は知っていた。エレクトリック・アコースティック・ギター、略してエレアコというタイプ。でも以前は直接アンプにコードでつないで音を出せるのは弦が金属製の物に限られていた。
 エレキギターやエレアコは、手元の弦の下に磁石を並べたピックアップという部品が付いていて、金属の弦が振動すると磁界が揺さぶられる。その磁界の変化を電気信号に変換してコードからアンプに送り、音を再生する、という仕組みだ。
 だから磁石に影響しないナイロン弦にはこの仕組みは使えない。その楽器店の店員さんが言うには、エレガットのボディの内部には小さなマイクが仕込んであって、胴体の内部で鳴っている音を直接電気信号に変えてアンプに送るそうだ。それなら磁石式のピックアップを使わないから、ナイロン弦のクラシックギターでも直接アンプにつなぐ事が出来る。
 ナイロン弦は張りが弱い。つまり弦を押さえるのにフォークギターの金属弦に比べて手の力が弱くてすむ。女の子にはこっちの方が楽と言えば楽だ。
 そのお店では女性用に少し小さめに作られたモデルもあったので、エレガットの中で比較的ネックが細いものを選んだ。これならかなり複雑な指の形で押さえる和音コードも使いやすい。
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