私立聖ブルージョークス女学院
単元8 霜月
 校舎の敷地内にある木々もすっかり葉を落とし、朝晩は寒さを感じる季節になった。今月の僕は茶道部の顧問補佐。葉月琴音という三年生の部長に案内されて部室に入ると、意外に小ぢんまりした十畳ほどの部屋だった。
「あのう、先生、申し訳ありません。今、茶室が定期点検中で使えないので」
 と葉月琴音がすまなさそうに僕に言った。
「え?茶室って、ここじゃないのか?」
「ほら、あの窓の向こうに見えているのが本来の茶室です」
 そう言われて窓に近づくと、この部屋から石畳でつながっている場所に小さな木造の、しかしいかにも古式ゆかしそうな建物があった。ご丁寧に小さな池まで横にある。
 いいかげん慣れたつもりだったが、どこまですごいんだ?このお嬢様学校は。わざわざ部室とは別に茶室、それもあんな本格的な物まであるとは。
「そういうわけで、今日は本格的な茶の湯をご披露できないのです。本日は煎茶立てにさせていただきたいのですが、よろしいですか?」
「センチャダテ?」
「急須でお茶を入れる、普通の家庭で行うのと同じお茶です。本来はお抹茶をお出しするのですが、初心者の方には煎茶道の方が気楽でよろしいかと」
「いや、僕も茶道なんて素人だから、むしろその方が助かるよ」
 しかし煎茶と言っても、道具からして僕が自宅で使っている物とは格が違った。漆塗りに蒔絵を施した豪華な箱がしずしずと運ばれてきた。蓋を開けると、中にはこれまた渋い陶器の湯のみが十個ほど並んでいる。よく見ると、全部微妙に形が違う。
「では始めさせていただきます」
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