懐古の街

第零話『星に願いを』

七夕の夜、澄んだ美しい女性の歌声が聞こえてくる。

その女の人は、古ぼけた、我が家の縁側に腰掛けながら、紅く悲しげな瞳でキラキラと零れ落ちてきそうな、天の川の広がる空を見上げていた。


その日はよく晴れた夜だった。

ここら辺は、ホタルも見られる程の清流も未だ残されている田舎で、都会よりも星が綺麗にハッキリと見る事が出来た。

その頃の僕は、まだ小学生で、彼女の事をこのボロアパートの何号室かに住んでいる、普通の人間のお姉さんだと思っていたのだ。

織り姫と彦星が再会を果たす夜。

物悲しげに、星々がさざめく空を見上げる美しい人―――

彼女は、彼女にとっての彦星と心を通わせる事が出来なくなってから、毎年七夕になると、いつもひとりきり、一人ぼっちで物悲しげな瞳で空を見上げていた。

僕は、彼女に出会ってからは、毎年、七夕になると、短冊に願う願いがあった。

彼女が何時までも、心を通わせられる、彦星様と巡り会う事が出来ますように―――
彼女は、僕が背後に立っているのに気がついて悲しげに微笑んだ。

< 2 / 32 >

この作品をシェア

pagetop