メリアと怪盗伯爵

8話 メイドの恋


「はあ・・・」

 メリアはぼんやりと木陰に腰を下ろし、小さな溜息をついた。
 メリアの頭には、今もまだ、あの満月の晩の出来事がはっきりと残っていた。
 
 アダム・クラーク男爵家の屋敷の庭で彼を見つけ、その地下へ案内したこと・・・。
 薄暗がりの中で、彼は一度も仮面を外そうとはしなかった。
 その仮面の下から覗く薄く整った唇。そして、目を奪われる程美しく艶やかな茶の髪。
 蝋燭の小さな明かりに照らし出された彼の全てが妖しく、そしてひどく幻想的だった。

「ダーク・ナイト・・・」

 メリアは無意識にその名を呟いていた。
 その名を口にした途端、メリアは胸が息苦しくなるのを感じた。

「闇の騎士様がどうかしたの?」

 急に頭上から降ってきた声に驚き、メリアは数センチ宙に浮き上がった。

「ひゃっ!?」

 メリアの予想外の反応に、双子は顔を見合わせてぷっと吹き出した。
「ごめんね、メリアちゃん」
「驚いた??」
 この双子はこの屋敷で食事全般を任されている料理係。二人は鏡を並べたかのようにそっくりで、どちらがどちらか見分けもつかない。


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