To.カノンを奏でる君
第2楽章≫託す想い。





 あと一ヶ月もすれば冬休みだと浮かれる教室。


 黒板と向かい合わせにある連絡用の小さな黒板には、赤や青や黄色のチョークでパーティを連想させるような飾りが描かれている。


「ねぇねぇ、デートはどこにする? 決まった?」

「うん、遊園地行くー」

「あ、いいー! あたしはどうしよっかなぁ」


 まだまだ中学三年生。しかしながら皆、当たり前のように恋人がいる。

 この季節、若いながらも独り身には寒すぎる季節だ。

 ――いやいや、中学三年生と言えば受験生。クリスマスなどに気を取られてはいけない。


「おーはよー!」


 挨拶ながらに花音の背後から腕を回し抱きつく少年。

 毎朝恒例の挨拶で、慣れてしまっている花音は拒絶しない。


 ウルフカットの黒髪は緩やかに胸元に流れ、シャツのボタンは若干開いている。

 笑うと細くなる目が優しい印象を与える彼、花園直樹は花音と祥多の友人だ。祥多と花音ほどではないが、一応小学校からの付き合いになるので、仲睦まじい。

 ただ、直樹は他の男子とは少し違う。


「ノンノン、タータンの様子はどぉ?」


 意味不明な用語だが、ノンノンとは花音、タータンとは祥多の事だ。


「元気? 良かったわぁ」


 お気づきだろうか。直樹の口調は明らかに女口調。

 小学校の頃からずっとこの調子で、花音には今更疑問などない。


 本人曰く、最も乙女を理解し且つ男を知り尽したオカマなのだそう。
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