泣かない家族
発病

ある日の夕食


2009年4月下旬。


定年退職をして札幌に再雇用で戻ってきた父とたまたま実家へ戻っていたあたしは、母と3人ですき焼きを食べていた。


父の引っ越しの後、母は年に一度の楽しみの友達3人で2泊3日の温泉旅行に行って「楽しかった」と喜んでいた。


その後がこのすき焼きの夕食だった。


母の旅行の話を聞きながら「よかったね」とあたしは言ったと思う。


彼氏との状態は安定していて、母はもう呆れていたし父は「そんなに好きなら」という感じで反対をするのをやめていた。

あたしがこの日実家に戻った理由は特になく、たまに帰ろうかな?くらいな安易な理由だった。



忘れない。

あたしは椎茸を食べようとしていた。

あたしが椎茸を口に入れたと同時に母は普段の日常会話をするように言った。


「お母さん、ガンになったから」


椎茸を噛むのも忘れてあたしは母を見ながら固まってしまった。

母は59歳だった。


何とか椎茸を飲み込んでから掠れる様な声であたしは言ったと思う。


「何で?」と。


「あのね、左の脇の所にしこりが出来てた。まさかと思って検査したら乳ガンだったよ。初期段階かもしれないしわからないけど今年か来年の始めには手術するからね」


世間話の様に普段と同じ顔であっさり言われた。

父を見ると頷いていたから父も知っている様だった。


「ごめんね、ビックリしたでしょ」


母が笑いながら言ったと同時にあたしの目からボロボロと涙が溢れた。

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