ノスタルジア・ロック
息を吸うと、嵐はドアをノックした。
『まだいたの?』
間髪いれずにドアは開き、先ほどの細身の男が顔をだした。
『あ、あの!』
急にだったため、嵐は声が裏返ってしまった。
『なぁに?入部希望者?』
細身の男の後ろから、甘い声が聞こえた。女子の声だ。
嵐は思わず姿勢を正した。
すぐに、彼女は細身の男をのけて、嵐の前にでてきた。
『あ…はい…。』
嵐は自分の顔が真っ赤になるのを感じた。
恥ずかしながら、嵐は女性が苦手だ。
いや、苦手というより好きなのだが妙に異性として意識してしまい、どうも恥ずかしくって仕方がない。
しかも、歳上の女性なんて緊張してしまって嵐が今日構えてきた精神の状態の許容範囲を越えてしまっていた。
『はーん。』
細身の男がにやついた。
『うちの副部長、美人だろ。お前みたいなやつは入部させん!!』
そう言った男を遮るように彼女は言った。
『あんたのせいで、新入生入らないんだから引っ込んでて!!』
強く放つその声は、嵐に初恋に似た衝動を与えたかのようだった。
整った顔立ちはぱっちり二重に厚い唇、スタイルは今までの中学までの同級生にもいなかった程の素晴らしさ。見た目は清純そうに見えるが高音だがハスキーな声がたまらなくセクシーで、強気で男を叱る姿に、嵐は心を奪われた。
『早瀬 嵐!!入部希望です!!』
気付いたら、叫ぶように言葉を放った。
嵐は、細身の男をチラッと見た。
『楽器の担当は?』
とげのある口調で男は半ば諦めた様に言った。
『ベースかギター、初心者なので教えてくださいね、先輩!!』
嵐が言うと、男は笑いながら言った。
『俺、ドラムだから無理。』
嵐はちょっと苛立ちを覚えたが、彼女の言葉で落ち着いた。
『よろしくね!』
男がため息をついたのがわかった。