使者の黙示録
「乗ってくれ、マザー」


マザーに発せられた男の低い声から、彼の冷静沈着な性格が伝わってくる。

「冷静」というより、「冷血」と言った方が正しいだろうか。

おそらく、彼は自分の目の前で人が殺されたとしても

まったく動揺することなく、平然としているだろう。

彼は、教団のお得意様といえる顧客である。


(それが、裏社会…闇の世界に生きる人間たち)


マザー・アミコは「失礼します」と、軽く頭を下げてドアを開けると

その体を素早く車内へ潜らせる。

ほのかに感じるコロンの香りが

男の本性をごまかしているように思えた。

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