フィレンツェの恋人~L'amore vero~

トゥーランドット

一昨日、クリスマスイヴの夜に起こった殺人未遂事件の犯人が逮捕された。


AM 6:10


携帯電話のアラームが鳴って、目が覚めた。


「ええーっ……もう朝になったの」


くあっとあくびをしたハルが、起き抜けの寝ぼけ眼をぱちぱちさせながら、テレビのリモコンに手を伸ばした。


「寝たと思ったら朝だ。ああ、眠い」


「ハルは眠っていてもいいのに。私は仕事があるから。準備しなければならないけど」


もぞもぞと毛布から抜け出した時、


「起きるよ。だって、東子さんが起きるのにぼくだけ寝てるなんて失礼でしょ」


ハルがリモコンのスイッチを押した。


「にがーいコーヒー飲みたい」


『マツモトサトシ容疑者、年齢は被害者女性と同じで二十歳。ふたりは元恋人関係でした』


「……え」


『マツモト容疑者は、男女関係のもつれから犯行に及んだとみられ』


テレビの画面に映し出されていたのは、強烈なフラッシュがたかれる中、警察署に入って行く容疑者を乗せた黒光りするワゴン車だった。


クリスマスイヴ 殺人未遂事件 男女関係のもつれか


と、テロップが流れている。


『マツモト容疑者は被害者女性と別れた後、幾度にも渡りストーカー行為に及んでいたと供述しており、素直に素直に犯行を認めているという事です』


「うわ、恐ろしいね。男女関係のもつれだって」


ハルが呟く。


「そう。捕まったのね」


呟いてキッチンへ向かう私に、ハルが言った。


「ああ。そういう事だったんだね。やっと分かったよ」


ドン、とソファーに手をついて、ハルが身を乗り出して来る。


「え? 何?」
< 108 / 415 >

この作品をシェア

pagetop