side:Jun Kusakabe



「うわっ。……しまった」

大きなビルがいくつも立ち並んでいるそこは、衣料品や食料品どころか家具まで揃ったデパートだ。

食料品売り場で買い物を終えたぼくは、牛乳や味噌などといった食材をぎっしり詰め込んだビニール製の買い物袋を両手に持ち、1階にある自動ドアをくぐって外に出た――瞬間だった。

いきなり頭打ちをくらう。


「どうしたの? パパ?」

出入り口で買い物袋を両手に引っさげたまま立ち往生するぼくの左下から、平べったい元気な声が尋ねてきた。

彼女は今年5歳になったばかりのぼくのひとり娘。

日下部 祈(クサカベ イノリ)だ。

身長はぼくの膝より少し上。

彼女が着ているお気に入りの桃色ワンピースは幼稚園に通うお祝いにとぼくの父が買ってくれたものだ。

定年退職を果たした今の父さんにとって、祈はまさに宝物なんだろう。

実家を訪れるたび、祈に付きっきりだからよくわかる。

ぼくが子供の頃なんて仕事一徹(シゴトイッテツ)で、子供なんてものにはまるっきり興味を示さなかったのに、今となっては孫娘に翻弄(ホンロウ)されっぱなしだ。


そんな堅物な人物でさえも解きほぐしてしまう彼女の容姿は、といえば――。

肩まであるやわらかな栗色の髪型は、毎朝ふたつにくくって欲しいとせっつかれたツインテール。

まだ幼稚園に行きたての年頃なのにすっかりおしゃれに夢中になっている。


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