LOVELY☆ドロップ

しんじつ。


side:Jun Kusakabe



もう間もなく仕事が終わるという頃、真っ白な巨大パネルが置いてある撮影室に突然鳴り響いた呼び出し音を聞いたぼくは顔をしかめた。

誰かの電話が鳴っている。


これが最後だと勢いづいている時のこれはかなり迷惑だ。


仕事の邪魔をされたと苛立ち、呼び出し音がする方へと目を配らせると、カメラの部品なんかを入れている大きな布製のカバンからだということに気がついた。


――ぼくのカバンからだ。


電話の呼び出し音が自分の携帯からだと知れば、ぼくの中にあった少しの苛立ちはしぼみ、代わりに不安という文字がもたげてくる。


というのも、ぼくが仕事に行く直前、美樹(ミキ)ちゃんの体調が悪そうだったからだ。

もしかして、彼女はまた熱を出してしまったのではないだろうか。


不安がぼくを襲う。


やはり仕事に来たのは間違いだったかもしれない。

出勤前にぼくが好きな笑顔を見せてくれたから大丈夫かとも思ったんだが、彼女はやはり体調が思わしくなかったのだろう。


一度引き受けた仕事をキャンセルしてしまえば、もちろんクライアントからは信用をなくす。

できれば土壇場でキャンセルはしたくないというのがぼくの本音だが、それでも人の健康ほど大切なものはない。

それは、亡くなった病弱なぼくの妻、沙良(サラ)から学んだものだ。


それなのにぼくは、金銭面でゆとりをなくすのが嫌だということだけで彼女の体調を後回しにしてしまった。


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