森林浴―或る弟の手記―
四冊目




慣れない肉体労働に、私の身体はぼろぼろでした。


手に出来た沢山のまめ、泥が詰まった爪。


肩や腰は常に悲鳴を上げていたのです。


私はそれでも、母の為、自分の為と必死に働きました。


郵便受けに入れられる金はまだ続いておりましたし、僅かに額が増えていました。


それでも、全く足りやしません。


ですが、助かることに変わりはなく、私は誰かも分からない相手に感謝しながら、それを使っていました。


ある日、仕事を終え、母の見舞いに行き、歩くのもやっとで病院を出た時です。


日本の復興の早さに驚かされながら、町並みを見ていました。


このままいけば、十年後には戦争の跡形もなくなる。


そう思える程に日本は成長していました。


「修一郎坊っちゃんじゃないですか?」と、懐かしい声がしたのです。


私はこの時既に十九歳になっていました。


坊っちゃんと呼ばれる歳でもなければ、そんな身分でもありません。


ですが、私はその声に振り向きました。


「ああ、やはり修一郎坊っちゃんだ」


目を細めてそう言ったのは庭師だった嘉一さんです。


嘉一さんは身綺麗にしていて、端整だった顔を精悍な顔付きへと変えていました。


実に何年ぶりの再会でしたでしょう。



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