アザレア


『お久しぶりです、篠宮さん』

『……は?』

過去の栄光に囚われる人は多いと聞く。

かく言う私もそのひとりで――多額の借金を抱えても尚、捨て身になりきれぬ私は、日に日に膨らんで行く金利に頭を悩ませつつも、大学中退後はごく普通の職に就いていた。


最終学歴が高卒になる私の方が勤務年数は長いけれど、後輩と言えど年長者にあたる女史には逆らえない。

強引に誘われ、断るに断りきれなかった合コンの席。
そこで私同様、参加者である誠と出くわしたのだ。


人に頭を下げられるようになった私を見て、誠はどう思ったのだろう。

きっと可哀相な人だと思ったに違いない。
直ぐさまウチに来い、と言われ、挨拶もそこそこにその場から連れ出されて。
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