彼と彼女と彼の事情
〈12〉動揺
それからしばらくは、忙しくもあり、穏やかな日常を過ごしていた――。 



隼人のことは、極力、考えないよう、自分なりに気持ちのコントロールに努めたつもりだ。   



  ………………………



桜の開花宣言から、ちょうどひと月を経た頃、珍しい人から連絡があった。 


――郁人だ。 



あの日……


新宿駅で、胸の内を曝け出してから互いに連絡を取り合うことはしなかった。 


胸が、ドクンと高鳴った。


受話器を握る手に、少しだけ力が入る。


「え、えん」


一度だけ咳払いして、通話ボタンを押した。 




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