わかれあげまん
好きになってはいけない。
やや慌て気味にコートに袖を通しながら、柚は早足に歩道を歩いた。
まだ心臓がドキドキいってる。
っていうか馬鹿じゃん、あたし。
所長の言うこと早とちりして解釈して…
っていうか、…
何であんな勘違いしちゃったんだろう…
いや、ほんとマジで妬いてるとかそんなんじゃないし!
ありえないし…
相手を誰ともせず必死に心の中で説得し続ける自分に、柚は焦ってふるふると頭を揺すった。
「だ、だ、だから。もう考えちゃダメだって、柚…!」
挙動不審にそう口にして自分をたしなめていると。
「おい!」
いきなり背後から不機嫌な声が掛かり、がしっと手首をつかまれる。
振り向かずとも誰だか分かった柚はびくりと肩を揺すった。