わかれあげまん
混 沌
* * *
一方。
洒落たスポーツバーのカウンターの隅に座った美也子は、恋人でありこの店のオーナーでもある啓祐の作ってくれたカクテルグラスを両手で持ち、着ていたパーカージャケットのフードをすっぽりと頭から被り、ビクつきながら酒をあおっていた。
「な…美也子。それ余計目立つんじゃないの?」
カウンターの中、カクテルシェイカーを揺すりながら顎髭をまとった大き目の口でニッと苦く笑って、啓祐が彼女に囁いた。
「しーっ啓祐!フツーに話しかけないでったら。見つかっちゃうじゃん」
潜めた早口でそうたしなめ、美也子はフードの中から斜め横のテーブル席の方を怪しさ全開に窺う。
視線の先の、その暗がりのテーブル席には、6、7人の男女の外国人客が座っていた。
啓祐の話だと、店の常連のフットサルチームの外国人選手たちだそうだが。
美也子が今こうして、息を潜めるようにして離れたカウンター席から彼らの様子を窺うのにはある重大な理由があった。