わかれあげまん
「あっ、そういえば、……シャツ!」
「え?」
「昨日、貸してくれたじゃないですか、シャツ。」
柚がくるくると黒い瞳を輝かせて言って来て、哉汰は思い当たった。
「ああ」
「ありがとうございました。明日返しますね?」
「別に。いつでもいいよあんなの」
ううん、と柚は首を振って。
「返しに行くんで、……あなたの制作室、教えてもらえます?」
赤信号に引っかかり、車を停車した哉汰は少し不機嫌そうに柚を見て言った。
「その“あなた”っての、やめてくれない?」
「へ?」
苦笑いして哉汰は言った。
「居心地悪いから。藤宮でいいよ。しかもあんたのが年上だし」
え。
と困惑して眉根をもたげつつも。
「じゃあ……えと、藤宮、くん」
と、たどたどしく柚は遠慮がちに、哉汰を呼んでみた。