わかれあげまん




「あっ、そういえば、……シャツ!」



「え?」



「昨日、貸してくれたじゃないですか、シャツ。」



柚がくるくると黒い瞳を輝かせて言って来て、哉汰は思い当たった。



「ああ」


「ありがとうございました。明日返しますね?」


「別に。いつでもいいよあんなの」


ううん、と柚は首を振って。


「返しに行くんで、……あなたの制作室、教えてもらえます?」


赤信号に引っかかり、車を停車した哉汰は少し不機嫌そうに柚を見て言った。


「その“あなた”っての、やめてくれない?」


「へ?」


苦笑いして哉汰は言った。


「居心地悪いから。藤宮でいいよ。しかもあんたのが年上だし」



え。


と困惑して眉根をもたげつつも。


「じゃあ……えと、藤宮、くん」


と、たどたどしく柚は遠慮がちに、哉汰を呼んでみた。



< 64 / 383 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop