ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―

2

「テーブル片付けたぁ?」
「うーぃ。」
 レミは蛇口を閉め、部屋に戻ってきた。
ミツは壁にもたれてテレビを眺めている。
テーブルの上には昨日ミツが飲んだペットボトルと、
一昨日食べたコンビニ弁当のガラが置かれている。

「片付けてないじゃん。」
 レミはミツを軽くたたいてテーブルを片付け始める。
おいしそうなにおいがキッチンから漂ってくる。
「ミートスパ?」
 ミツはむくりと起き上がり、頭をかいた。
「そうだよ。今運んでくるから、テーブル片付けてって。」
レミは立ち上がり、キッチンへと戻る。
一分もしないうちに
湯気をたてたミートスパを二皿、テーブルに並べた。

「はいっ」
 レミに差し出されたフォークを受け取り、
ミツはミートスパをすくい上げた。
今日は課題で遅くなったから簡単なもので、
とレミはスーパーの袋をさげてミツの部屋に来て、
いつもながら手早く夕飯を作り上げた。
ミツはパスタの湯で時間を計測する係としてそれに関わり、
ミートソースは魔法のようにできあがった。

「ミツ、今日学校行ってないでしょ。」
「ん?ああ。」
「なんで?」
「なんでって・・・。」
 ミツのフォークはパスタの中をぐるぐるとさまよい、止まった。
レミは髪がパスタに入らないように左手で抑えながらパスタを食べる。
「どうすんの?就活もしてないじゃん。」
「やるよ。」
ミツはフォークを置く。
「嘘ばっか。」
レミはミツを見ずに答えた。ミツはレミを見る。
「早く食べちゃえば?」
「おお・・・。」
 レミに急かされて、
ミツはまたフォークにパスタをまきつける作業に戻った。

テレビから流れる十代のアイドルの曲。
カチャカチャと皿とフォークが擦れる音。
レミは早々と食べ終えると、
ミツの皿も空になったのを確認して流しへ運んだ。

 レミの機嫌が悪いと察したら、
何も言わないのが一番だとミツは知っている。
売り言葉に買い言葉でレミの地雷を踏めば、
あとはひたすらミツが謝り続けることになる。
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