セックス·フレンド【完結】
18
その日の夜、あたしは携帯電話を手に病院を抜け出した。


病院の入り口にあるベンチに腰を下ろし、空を見上げる。


外は肌寒く、なめらかに黒い空に、黄色い満月がくっきり浮かんでいた。

すっかり、秋だ。


遠くで、虫が鳴いている。

詩織の投げつけた電話は、電源を入れると、闇に光を放ちながら息を吹き返した。


傷だらけになった画面には、それでも、一年前のあたしたちが相変わらずそこにいた。


幸福に満ちていた。


まるで、昨日のことのように蘇える、遠い日の記憶。


電話帳をスクロールし、【古谷隆也】の名前を探す。


通話ボタンをためらいもなく押す。


聞き慣れた呼び出し音が繰り返し鳴り響く。


しかし、それは、やがて、留守番電話に切り替わってしまった。


もう、声を聞くこともできないのだろうか。


しばらく放心したまま光の消えた画面を眺めていると、携帯が震えた。


着信には、【古谷隆也】の文字。


今度はためらいながら、通話ボタンを押した。
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