抹茶な風に誘われて。
1.抹茶な風に誘われて。(出会い編)

Ep.1 静

 キース、あなたはいい子ね。

 お母さんは、あなたがいたから生きてこられた――この異国での日々も、あなたがいたから幸せだったの。

 大好きよ、キース。

 お願い――お父さんを、恨まないであげて。

 キース、私の愛しいキース――。




 一人が嫌いだった。

 母の優しい手から引き剥がされ、知らない家に一人で閉じ込められるのが、いつも不安でたまらなかった。

 色々な人間が入れかわり立ち代わり現れたけれど、どの瞳も自分を正面から見据えてはおらず、大きすぎる部屋で過ごす静かで退屈な時間は、小さな自分にとっては苦痛でしかなかった。

 父だと名乗る見知らぬ男ですら、自分を抱きしめることも、愛を示してくれることもなく、ただひたすらに色々な知識を詰め込み、強要し、一つでも言うとおりにできなければ容赦なく罰を与えられた。

 聞きなれた優しい母のものとは違う言葉を話し、自分とは違う肌の色をした人たちが暮らすこの土地も嫌いだった。

 だから――復讐を誓ったのだ。

 あれほど嫌いだった一人になることを選び、家を出た。

 わかったから、なのかもしれない。

 嫌いだったのは、『一人』であることじゃなく、『孤独』であることだったのだと。

 本当の孤独とは、大勢の中にいてこそ、感じるものなのだと――。

< 1 / 360 >

この作品をシェア

pagetop