太陽と雪
ヘリで無事に屋敷に帰った後も、気が気じゃなかった。


どうするのかしら。
院長……


病院をたたむなら……今働いている獣医師たちも職を失うことになる。


葦田 雅志(あしだ まさし)は……問題ない。

技量も知識も院長には少し及ばないけど、豊富だ。


他の皆は、大丈夫。


あ。
……三咲 奈留(みさき なる)……

あれは、少々問題ね。

いつも葦田 雅志に甘えてばかり。

自分の知識や判断力を駆使して仕事をするようでなければ、あの仕事はやっていけない。


同じ店をたたむにしても、その性格を改善してからでないと。

新しい動物病院でも上手く働けるかどうか……
ってところね。


「矢吹……何かないかしら。

あの三咲 奈留の甘っちょろい性格を改善出来て
なおかつ、あわよくば、北村動物病院を存続させる方法」


「お嬢様。
どこの誰から手渡された資料かは存じません。

ですが、あの紙に女性獣医師限定コンテストの記載がございました。

彼女をそれに参加させてみては?

あのような場では、誰かの助言を受けることは、もちろんできません。

一瞬一瞬の的確な判断力と知性がモノを言う舞台でございますから」


「そうね。

コンテストの内容は分からないけれど、エントリーだけはさせてみるわ」


矢吹と私が、顔を突き合わせて自室でそんな話をしているときだった。

隣の部屋では麗眞と相沢さんが、手がかりを掴んでくれていたんだ。

そんなこととは知らないで。

「防犯カメラの映像、割れた。
見ろよコレ。

腕に入った『G』のタトゥー。

城竜二の使用人だ。

北村動物病院から資料を盗んだの。

あと、南を城竜二家の使用人に変装させて、盗音機を仕掛けてきてもらった。

その音声、相沢も聞くか?」

『三咲 奈留。

何よ。

こんなヤツ、最初のトリミングで落とせる。

奇跡的に残ったとしても、次のフリートークで落ちてくれるわ。

飼い主と、留学生との。
新体操部って資料にはあるし、アジリティーは危険ね。

コイツは、準優勝はおろか、優勝すら出来ないと思うけど』


「相沢、姉さんに、音声を編集してから渡せ。

競技内容の概要だけ、だ」


「……かしこまりました。
麗眞坊っちゃま」

何の話をしているのか気になった。

だが、麗眞の部屋も私の部屋も、防音性には優れている。

だからこそ、高校時代の麗眞は夜通し椎菜ちゃんとイチャイチャ出来たわけだ。

会話が聞こえるはずはなかった。
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