太陽と雪
「あの……じゃあ……

オーナーが社長令嬢だって噂は」

「噂もなにも、真実よ?

申し訳なかったわね、隠していて。

あまり知られたくなかったのよ」


「大丈夫ですよ。
わざと隠していたわけじゃないんでしょう。

オーナーが社長令嬢であろうが、そうじゃなかろうが。

オーナーに対する、俺たちの接し方は変わりませんよ」


「さ、とにかく、乾杯しようじゃないか」


「では、奈留ちゃんの準優勝を祝して……
かんぱーい!」


立食形式のパーティーらしい。

皆、その豪華さに目をキラキラさせていた。

これくらい、私は慣れているけれど。


さんざん、株主総会だかのパーティーに参加させられているからね。

それから、何時間経った頃か分からない。
酔いが回ってきたらしく、大分フラついてきた。

このパーティーのためだけに、開放してくれたというバルコニーに向かった。

何やってるのか知らないけれど、バルコニーの前に人だかりが出来ている。

「なるほどね……」

隙間からシルエットを覗いて、状況を把握した。

葦田 雅志が、奈留ちゃんにプロポーズをしていたのだ。

そういえば、類を見ないくらいのバカップルだったわね……。

あの2人。

でも、私なりに応援してるのよ?

その件で矢吹に頼み事してるしね。


「オーナー!
そんなニヤニヤしながら見つめないで下さいよ。

恥ずかしいです」


いいじゃない。

他人様のプロポーズなど、滅多に見れるものではない。

私もいつかは、綺麗な夜景が見えるところでプロポーズの言葉を貰いたいなぁ。

もちろん、お見合いでも政略結婚でもなく、自分の気に入った人に。

矢吹、とかも悪くはない。

矢吹だったらどんな台詞を言うのだろう。

酔いが回ってきたため、矢吹がそっとリムジンまで乗せてくれた。


矢吹が上手く、院長や皆に口実を言ってくれたらしい。

矢吹によると、リムジンの中で見事に熟睡していたらしい私。


目覚めたのは、お屋敷の私のベッドの上だった。


「あれ……?
矢吹?」


「ええ。
お目覚めですか?

彩お嬢様。

ずいぶん長い間、お眠りになられていたようでございますが」


「そう。
そんなに寝ていたのね」


やっぱり、疲れていたのかしら。

私が寝ている間に、頼んでいた資料を完成させていたであろう矢吹。


「こちらでよろしゅうございますか?
彩お嬢様」


矢吹から手渡された資料にはこう書かれていた。


”宝月家が案内!ロマンチック街道”!


「上出来よ?
矢吹」


あのバカップル2人を、婚前旅行に招待してあげるのよ。

今まで鑑識や他の仕事ばかりでこっちの業務に関われなかったしね。

せめてもの罪滅ぼしよ。


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