太陽と雪
「さ、もう寝ましょ?
ところで、彩?
何でこんなとこまで来たの?」

梓さんはいい人だ。

私が、言葉に詰まると後でゆっくり考えればいいと言わんばかりに話題を変えてくれる。


「ん?
動物病院に研修に行っている、出来の悪い獣医の様子を見に来たのよ」


「へぇ……
その子、出来いいのね?

彩は素直じゃないから」


梓さんにはバレバレだったか。



「ええ。
いい加減、心配になってくるわ。
半年経つのに何の連絡もないんだもの」



「とかいいつつ、ホントはゆっくりしたいんでしょ?
フランスで」



「まあね?」



フランスに滞在して1ヶ月後に、まさかの事実を知るって知ってれば……こうして優雅に歓談なんてしてる場合じゃなかったのに。



「ねぇ、行かないの?
病院にいるんでしょう?
彩ちゃんにとって……最愛の人」


「梓さんっ!
最愛の人とか……そんなんじゃないですから」


「……あら、そうなの?

そんな風には見えないけれど。

でも、とりあえず……病室にだけでも顔を出してあげたら?」


「でも、私なんかが今更行っていいのかしら?
それに……

正直、今更どんな顔をして藤原に会えばいいのかしら。

会って異性として好きです、だなんて、とても言えないわ。

言われた本人も戸惑うでしょうし」


私はそこで言葉を切って、ドア口に控えている矢吹の顔を一瞥してみた。


藤原の話題を出してるのに、矢吹は嫌な顔一つしてない。


「参りましょうか。
お嬢様の望みを叶えることが、執事の仕事でございますので」



本当の本当に、私を異性にとして見ているのなら。

少しでも気になる存在なのなら。

ちょっとくらい……嫉妬してくれてもいいじゃない。


その矢吹の態度に、少なからずショックを受けている自分がいた。
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