太陽と雪
相沢の出自は予想外に暗いもので、驚いたが。

「相沢さ、覚えてないの?

その女の子の特徴とか」

「今でも鮮明に覚えております。

綺麗な茶色の髪をしておりました。

成長してから、いろいろな家の執事として仕えてその女の子を探しました。

いないと分かると、わざとやる気のない態度をして暇を出されるように仕向け、転々としながら情報を得ました。

時たま、麗眞坊ちゃまの執事の仕事以外に、宝月興信所としての仕事を自ら買って出ることが多かったでしょう、昔から。

それも、情報を得たいからでございました。

ついこの間、謎が解けました。

不手際です。

顔はあのテーマパークの貸し切りの時に見ていて声まで聞いていましたのに。

すっかり、大人の女性になられていたゆえ、
すぐにはわかりませんでした」

「え……それって」

俺にも、思い当たる節があった。

宝月家のフランスの別荘で、スタンガンの前に、飛び出していった子だ。

思えば、美崎さんに何かあったとき、決まって相沢は泣きそうなくらい眉を下げていた。

スタンガンの前に飛び出していった美崎さんの後を追おうともしていた。

今は裁判を受けている元専属医師に、美崎さんが寝込みを何度も襲われそうになったと言っていた。

その際は、その場に倒れるのではないかと思うほど、青白い顔をしていた。

それが他ならぬ相沢だった。

もしかして。
小さい頃に会ってお守りをプレゼントしてくれたその女の子って、美崎さん、か!?

「矢吹さんと一緒に屋敷に入ってきたときに、ジャケットのポケットから、覗いておりました。

携帯電話のストラップとして着けていたのでしょう。

はみ出ていたそれを見て、脳天に雷が落ちた思いでした。

探していた方は、意外に近くにいたんですから。

灯台下暗し、というのはこのことかと思い知りました。

同時に、宝月家にいられたことをこんなに感謝したことはございませんでした」

「やっぱり、美崎さん、なのか……」

俺の言葉に、相沢は、首を縦に、強く振ったのだった。

「さすが、麗眞坊ちゃまは慧眼でいらっしゃいますね。

それでこそ、我が主です」

俺に、何かできることないかな……

そんなことを考えていた矢先のことだった。



刑事の仕事は、いつも突然、思いもよらない形で意外なところから舞い込んでくる。

考え事が多いときに限って、それはやってくる。

そう痛感させられた。

俺がシャワーを浴びようと立ち上がったその瞬間に。


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