太陽と雪
大学での講義が終わると真っ先に椎菜の病室に向かった。

そこの仮眠室で眠るという生活が1週間ほど続いた。

病室では、俺と椎菜の2人で、着々と挙式の日取りについての話し合いが行われている。

そんなある日のことだった。


久しぶりに家に帰り、姉さんの部屋の前を通りかかる。

少し扉が開いていた。

姉さん、誰かと話しているのか?

姉さんと、あの女、美崎の声がした。


「ねえ……彩……。

本当に言うつもり?

あのこと……」


「早いほうがいいわ。
早かれ遅かれ、いずれ知ることになるのよ」

「彩、貴女のそういう素直で正義感強いところは、昔から好きよ?」

「……私はいつでも素直よ。
……ありがと」

そんな会話を、聞くともなしに聞いてしまったものだから、この日の夜はなかなか眠れなかった。

何をするでもなくベッドに横たわっていると、部屋をノックする音が聞こえた。

「麗眞さま、いらっしゃいますか?」

俺の名前に坊ちゃまを付けることないさま付けで呼ぶのは、姉さんの執事、矢吹さんだけ。


「……矢吹さん?
どうか、しましたか?」

「ええ。

麗眞さまにお話がございます。

お嬢様は徹夜で作業に当たっておりますので私が代わりに」


姉さんの奴、また徹夜で本の原稿書いているのか。

少しは寝たらどうなんだ。

そう思いながら、いつもより沈んでいる矢吹さんから話を聞いた。

その内容は、誰かが俺と椎菜の結婚を破談にしようとしているらしい。

「その誰かは分かりませんが、麗眞さまもお気をつけて……。

何しろ、椎菜さまの病室に盗聴器が仕掛けられていたそうです。

聡明な麗眞さまならお分かりでしょう。

つまり、挙式の話も相手には筒抜けです」

「分かってる。

わざわざ、ありがとうございます」


「では、私はこれにて失礼致します」

これで、ますます眠れなくなったな。

俺も、姉さんみたいに原稿を書く作業にではないけど、取り掛かるとするか。

俺と椎菜の未来を守る、大事な作業だ。
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