太陽と雪
序の口……でもなかったわ。

降下はするわ、一瞬でスピードをあげて駆け抜けるわ……

炎の演出と相まって、とても怖かった。


「お嬢様。
ジェットコースターというものは……そういうものなのでございますよ」


「知ってるわよ……それくらい」


矢吹は、嫌みなくらい、爽やかな笑顔を浮かべながら……顔をわざと近づけて言ってくる。


「そんなことをおっしゃるなら……怖くないのでございますね?
垂直落下」


「……」


無言で背の高い相沢さんの後ろに隠れた。


「冗談でございますよ。

では、急降下がダメなのでしたら……
1回転でしょうか」


い……1回転?


1回転って……回るのよね?
ぐるっと。


ジェットコースターが1回転するなんて……聞いたことないわ。


「おや、1回転するループコースターもご存知なかったのでございますか?

所詮は急降下と同じく一瞬の出来事でございますから、どうぞご安心を」


「はあ……」


この男はまったく!
さりげなくバカにして!


「あ……そうそう、彩お嬢様。
伝え忘れておりました。

恐怖を感じられた場合は……
相沢ではなく、私にお申し付けください。

彩お嬢さまの執事は、相沢ではなく私、矢吹でございますので」


何……?

その、意味深なセリフ……

意味が分からない。

その台詞の意味が分かるらしい私の愚弟は、一生懸命に笑いをこらえている。

後で、是が非でも聞き出してやる!


自分では、心身ともにまるで熱があるみたいになっていたのに、気付かなかったの。


ううん。
気付かないフリしてた。


本人も知らない間に……私の心を奪っていく貴方は……

罪な人。


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