あやとり

いちばんの薬


「少しお話をお伺いしたいのですが」

刺したのは、きっとあの男だ……。

私は栗木の顔を思い出していた。

あの時、あれだけ頭を下げておきながら、直哉を巻き込んでいながら、やっぱり根強くチャンスを窺っていたんだ。

自分がこんな光景を見ることがあるなんて思っても見なかった。

平凡だと思っていた毎日が、栗木の出現で急に違う色で照らされる。

人間なんて何があるかなんて分からないし、何の安心もないものなのだということを、突きつけられたみたいで怖かった。

 優ちゃんは空ろな目で淡々と質問に答えていた。

買い物から帰ってきたときに、駆け寄ってきた男がいきなり刺してきたと話していた。

「何か言っていましたか?」

一人の男の人が訊くが、優ちゃんは首を横に振る。


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