今宵は天使と輪舞曲を。

§ 06***奪われたブローチ。




 小鳥のさえずりが聞こえる。メレディスはほうっと甘いため息をついた。

 今日も夜が明けた。いつもなら屋敷中のメイド役をたった一人でこなすの細い体は疲労が溜まり、気怠いまま――。憂鬱な気分でベッドから起き上がるのだが、今朝は違った。

 天井と壁の角の方では六角形の大きな蜘蛛の巣が見事に張り巡らされているのが見える。メレディスは体をベッドに沈み込ませたまま、今となっては自室である六帖ほどの簡素な部屋をぼんやりと眺めていた。

 昨年、叔父が他界するまではメレディスの部屋だった場所はデボネ家の衣装部屋になっている。彼女の居場所は意地悪な叔母と従姉妹によって追いやられてしまった。そしてこの部屋は、昨年まではデボネ家の使用人のものだった。

 体をあたためる暖炉すらない、問題が多すぎる部屋の床は剥き出しの板が張られているだけで、絨毯さえない。窓を覆うカーテンも薄く、立て付けも悪いから、隙間風をすんなり通してしまう。真冬ではない分、まだ気候もいくらかはましだが、それでも朝方は昼間より冷えるし、太陽が沈んだ夜は一段と寒さも増す。それなのに、かけ布団も十分に与えられていないため、薄いキルトを重ねて繕い込み、メレディスなりに寒さを凌いでいる状態だった。

 屋敷中の手入れを任されているメレディスは、当然自分の部屋を掃除する余力も残っていない。


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