10月の雨
序章
 雨が降っている。私の髪を濡らす。寒さは不思議と感じない。テトラポットが下に見える。それに海の水がぶつかっては跳ねている。
真夜中にこんな所でなにをしているのだろう?
私はこの場所に死ぬ為に来たのだ。怒りなどではない。
悲しいというべきだろうが、それも違う気がする。
もう、何も考えたくない。持ち出してきた睡眠薬を一気に飲み込む。
ジーンズの後ろのポケットにはナイフがある。これで手首を切り落とすのだ。そして10mはあろうか、海に身を投げるのだ。
後は後悔しようが、どうにもならないだろう。
私はナイフを抜き、力を込めた。
「つぅ・・・・・・・。」
激痛が全身を走り、冷たい地面に真っ赤な血が垂れる。このまま海に飛び込もう。そう思い身を投げ出そうとした時、誰かの顔が浮かぶ。
私が愛した人間だろう。しかし私は愛した男に裏切られここにいる。
違う。誰だろう?遠のく意識の中で考えた。
それは他界した父であった。
「父さん・・・・。」
意識はそこで途切れた。
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